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掲載日
2016年2月2日更新

Dr. Bamba図8日高・胆振地方のクロム鉱山の位置 それではこれから日高のクロム資源に触れることにします。
日高地方は良質のクロム資源基地として古くから有名であります。図8に日高のクロム鉱山の位置を示します。また図9に昭和年代(昭和30年まで)における北海道のクロム生産量の実績を主要7鉱山別に示しました。
 日高地方のクロム鉱床はポディフォーム型といって不規則な形態ですから探査は困難をきわめます。産状の一例として日高の日東鉱山の例を図10に示します。鉱床は複雑で不規則に分布していることが分かります。このタイプの鉱床から産する鉱石は変化に富み、図11に示すようにいろいろのものがあります。
 鉱床の成因は古くから論議されて来ましたがまだ定着した成因には達していないようです。最近この地方に、富内クロム鉱山が発見されたので、筆者ら(加藤・中川・番場・国分)は早速調査研究を行い、この鉱床の成因に一定の解釈を与えましたので、その概要をお話しすることにします。
クロム鉱床の母岩は、輝石かんらん岩起源の蛇紋岩ですが、中軸帯の北部のものは斜方輝石かんらん岩、すなわちハルツバージャイト(Harzburgite)です。ハルツバージャイトは図12に示すように、中軸帯では北部に限定され図の中のグループ(1)として示されています。この蛇紋岩はHarzburgiteの頭文字Hを使い、H-系柁紋岩としました。H-系蛇紋岩にはクロム鉱床は不毛です。
 一方、かんらん石と単斜輝石とからなる蛇紋岩はウエールライト(Wehrlite)と呼ばれます。また、かんらん石と両方の輝石からなる蛇紋岩はレールゾライト(Lherzolite)と呼ばれます。

図9北海道のクロム鉱石の生産額(昭和元年-30年) 中軸帯の蛇紋岩は上記の3種の蛇紋岩が組み合わさって出来ているのです。(2)とした蛇紋岩は南部の鵡川-沙流川流域の蛇紋岩で、この蛇紋岩は単斜輝石を多く含んでいます。そこでこの蛇紋岩をwehrliteの頭文字Wを使って、W-系蛇紋岩とよぶことにします。ここにはたくさんのクロム鉱床が知られていますから、W-系蛇紋岩はクロム鉱床に富むと言うことが出来そうです。(3)の蛇紋岩もW-系でクロム鉱床を内蔵しています。
 以上からW-系蛇紋岩とクロム鉱床とは密接に関係していることが考えられるのです。そこで単斜輝石の組成を検討してみました。面白いことにこれがクロムを含む透輝石だったのです。クロム透輝石が何らかの理由で再溶融してクロムに富むマグマが生まれれば、それが貫入することによってクロム鉱床が出来るのではないかと推論されるに至ったのです。

 学問は日々進歩していますから、新しいクロム鉱床が発見され、研究の対象が広がればいろんなことが分かってくると思います。そうなることを期待しているのです。
 ところで、クロムは一体何に使われているのでしょう。このことを知らない人は案外多いのです。日高産のクロム鉱石は高クロム鉱石といって、酸化クロム分(Cr203)が60%も含まれているので多くのものに使われます。顔料、染め物の定着材、皮なめし用の薬品、鉄族金属との合金などクロム以外の金属では代用が効かないのです。もうひとつの特徴は、クロムは人目に付かないところで活躍していることです。私は授業の合間に学生に「クロムのような人になりなさい」といっております。その意味は目立つ必要はない、しかし、かけがえのない人間になれ、ということなのです。 図10日東鉱山本坑のボディフォーム型クロム鉱床の産状

図11ボディフォーム型クロム鉱石の多様性 図12北海道中軸帯の蛇紋岩の3分類とそれらの位置

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