ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
Menu
背景
文字サイズ
現在地

本文

掲載日
2016年2月2日更新

6/3 足元の地面のお話、それと山のトイレの問題

これまで「石」を調べてわかってきたことをお話してきました。でも、「じゃあ私の足元はどうなっているんだろう、話に出てくる石や地層ってどこで見られるの?」ということがイメージしにくい人がいらっしゃるのではないかと思います。

【まず表面は土壌】

ふつう私たちが住んでいるあたりには、「土」つまり「土壌」がまず地面を覆っています。岩石が風化して細かくなり、火山灰が降り積もり、雨の影響で化学成分が抜けたり加わったり・・・その後植物が生え、微生物も関与し、有機物が含まれるようになります。こうして初めて「土壌」ができあがります。

岩石が風化する、と一口で言いましたが、原因は何通りかあります。

  • 熱かったり寒かったりする、温度の変化。
  • 乾燥したり水を吸ったりして膨張したり収縮したりする:泥岩などの場合。
  • 割れ目に水が入り込み、これが冬に凍って周りを押し広げる。
  • 植物の根っこが割り込んでいく。
  • 氷河や侵食のため、上に乗っていた“重し”が無くなって膨れる。

などです。

【土壌の下は?】

土壌の下には、石っぽい層が登場します。
日本で現在人が多く住んでいるところは割合新しい地層のところが多くて、・川が山から出てきて扇状地を作ったところ・河口の近くで石や砂が堆積したところなどです。

さらに下には、もっと古い時代のしっかりした岩が登場します。普通に暮らしているとたしかに“地層・岩石”は目にしにくいですが、それでも道路工事で山や地面を削りこんだところや、川の上流で流れが地面を削っているところなどで地層を見ることができます。場合によっては、木が生えていない非常に山の高いところでも地層がはっきりわかることがあります。

だから、地質の研究者が『地層がどうこう・・・』と言っている場合、表面の土壌や、場合によっては堆積したての新しい層も頭の中で剥ぎ取って考えていることが多いのです。

【話変わって“山のトイレ”のお話】

特に登山される方が集中する山域で、トイレ使用後のティッシュペーパーや“ブツ”の放置が問題となっています。

山の高いところで地層や岩石がよく見える、というのは、もちろん植物が減ってくることと、それに伴って土壌もなくなってくること、の裏返しです。そういう『土壌の無い』ところで用を足すと、なかなか分解が進まないであろうことは想像に難くないでしょう。

では植物が生えている、それほど高度のないところなら大丈夫でしょうか?・・・必ずしもそうともいえないです。
登山道やキャンプするところで、トイレに使えるところというのは自然に決まってしまいがちです。そうすると分解が追いつかず、その付近から流れ出る川に大腸菌が流出する事態にもなりかねません。実際に本州方面では問題となり、安全のため水が飲めない地域も出ていると聞いています。

それからティッシュペーパーの問題もあります。
山でもポケットティッシュを使う人が多くなりました。町中で配られていたりして、非常に便利なものです。ただしこれが厄介なものでもあるのです。鼻をかむ時のことを思い出していただくとよいのですが、今のティッシュペーパーには「水に濡れても簡単には解けたり破れないしない」ように加工がしてあるのです。この加工が非常に優秀であるため、外に捨てられた使用済みティッシュペーパーは何年も分解されることなく、長々とその白い姿を晒すことになります。

これらの惨状を目にした人たちを中心に、「山やキャンプには携帯トイレを持っていって、自分のした“もの”は持ち帰ろう」と行動を起こしている人たちがいます。いきなり携帯トイレまでいかなくても、口の閉められるビニール袋を1枚持っていけば、簡単に使用紙を持ち帰ることができます。どうしてもいやだ・・・という人には、解けるティッシュも販売されています(またはトイレットペーパーでもよいです)。多くの人が集中する登山口などにはトイレを設置するべきだ、とか、様々な議論や意見もあります。みなさんもぜひご一考を、そしてできることからはじめてみませんか?

▲ページトップヘ
▲迷走記タイトルヘ

 


6/10(土) 石が化けるお話:変成岩

アナウンサー:大橋さん

ある石が違う石に化けてしまうことがあります。これはかなり大規模な変身で、その名も『変わって成る石=変成岩』。固体のままで変化するのが大きな特徴です。

【変身した岩でできた山、日高山脈】

日高山脈は「変成岩と深成岩でできた山」といってもいいくらいで、地質学的には『日高変成帯』と呼ばれます。このような大規模な分布をする変成岩は、地球規模の大地と海の動きに関係して作られます。地球は地下にもぐるほど温度や圧力が高くなりますが、この熱や圧力のために岩石が変化させられてしまうのです。

日高山脈は地球の表面がめくれ上がってできた山なので、地球の浅いところ(温度の低いところ)から深いところ(温度の高いところ)まで連続してみることができます。実際に楽古岳付近で確かめてみましょう。

【広尾(十勝)側の入り口】

まず広尾の町から山に近づいてみましょう。
林道に入ると、まわりには砂岩や泥岩といった堆積岩が見られます。

林道終点まで到着し、もう少し行くと川を渡って登り始めます。このあたりは、堆積岩が焼けてきた「ホルンフェルス」という石になっています。まだこの辺は“生焼け”状態で、堆積した時の構造などが残っています。

【登山道のあるあたり】

さて登り始めましょうか。
登山道では石はほとんど見られませんが、平行して流れている小川には「片岩」や「片麻岩」と呼ばれる石が登場しています。先の「ホルンフェルス」にさらに熱が加わってできた石で、黒っぽい鉱物と白っぽい鉱物が縞々を作っています。

【頂上】

お疲れ様です。頂上のあたりには、「トーナライト」という石が広がっています。
トーナライトは火成岩の仲間で、マグマが固まってできた石です。花崗岩によく似ていますが、カリ長石という鉱物が少ないのが特徴です。このトーナライトを作ったマグマは今地上で見えている岩石よりもさらに深いところででき、それが染みてきて固まったのだと考えられています。

【日高側に降りる】

では、尾根を乗り越えて日高側へ降りていきましょう。
頂上で見たトーナライトなどの火成岩に混じって、こちらでも片麻岩が見られます。ただしこちらの片麻岩は、入っている鉱物などの研究から、より深いところで作られた石であることがわかっています。
この他、「角閃岩」という、もともとは玄武岩などであった変成岩も見られます。

【楽古山荘まで来ましたよ】

おお、楽古山荘が見えてきました。ここからしばらくは、林道の脇が切り立った崖になっています。この崖は、先ほどから登場している「トーナライト」や「角閃岩」が多いところです。ときどき「片麻岩」も混ざっています。
このあたりの石は輝石という鉱物ができていることが多くて、そういう石は別名「グラニュライト」とも呼ばれます。非常に温度が高いところでできた石である証拠です。

【その先の河原では】

登山ポストのあるところで崖は終わります。ここから林道は割と平坦になりますが、平行して流れているメナシュンベツ川へと目を転じてみましょう。
しばらくは函状の地形が続きます。ここの岩はさっきの崖と同じような種類の岩です。
そしてあるところで地形が開け、河原も広くなります。このあたりは日高山脈を作る土台となった大きな断層が走っているところです。

このように、十勝側から日高側へと、だんだん温度や圧力の高いところでできた石が見られます。つまり私たちがどんどん地下にもぐっていって、まわりの岩を見るのと同じことです。最後の大きな断層が、見えている中では一番深いところになります。

▲ページトップヘ
▲迷走記タイトルヘ

 


6/17(土) ヒスイはどうやって加工する?

アナウンサー:たしか和田さん

【硬いヒスイはどうやって加工する?という疑問】

「昔の人はどうやってこんな硬い石を加工したんでしょうなあ」と、あるお客さんがおっしゃいました。もっともな疑問ですが、私はそのときお答えできませんでした。調べましたので、この場をお借りしてお話します。

【現代の方法】

まずは、現在どのように加工されるかをご紹介しましょう。
石の加工には各種の“文明の利器”を使用します。たとえば、地質研究者は以下の手順で石をうすーく加工し、顕微鏡で観察できるようにします。

  1. 大カッターを使って、石を手ごろな大きさにカットします。
  2. 片面を磨きます。
  3. スライドガラスに貼り付けます。
  4. 石の厚みをどんどん削っていき、最終的に0.02-0.04mmの厚さにします。これは十分に光が透けて通る厚さです。小さなカッターや、ろくろのような形をした研磨機を使います。

ほかにも、超音波、レーザー、水(ウォータージェット)などの手段を使って石を切ったり磨いたり穴を開けたりします。

【古代の方法】

古くから石はたくさん加工されてきました。しかし鉄が使われるようになるのは石器時代よりあとの話なので、古代の人たちは鉄を使った道具を使うことはできません。さあどうしましょう?
石器の作り方で代表的なのは、

  • 一つの石を打ち砕いていって一つの製品にする(石斧など)
  • 石から薄い破片を剥ぎ取り、その破片を加工する(ナイフなど)

打ち砕く場合は石同士をぶつけることになるでしょう。このとき使われるのが「たたき石」と呼ばれる道具です。たたき石を使って荒く砕いておいて、砥石で磨きます。
ヒスイの勾玉も、おそらく石器と同じような行程で加工されたのでしょう。ただし硬いので、割る段階で「特別技」も使われたようです。特別技とは・・・ヒスイの原石を焼いてすぐ水につけ、ヒビが入ったところから割ります。実際に石を焼いたあとがよく見つかります。また、穴は竹ヒゴのようなものと磨き粉(金剛砂)を使って、時間をかけて根気よく開けたのでしょう。弥生時代にはメノウや安山岩で作った石針も使われます。磨くのは砥石(砂岩)や磨き粉(金剛砂)ですね。

※ヒスイの加工法については、新潟県青海町の自然史博物館の方にお聞きしました。

▲ページトップヘ
▲迷走記タイトルヘ

 


6/24(土) 石が化けるお話:マグマ

アナウンサー:和田さん

【マグマって何?】

火山のモトとなるマグマは、地下深い場所にある石が融けて集まったものです。プレートと呼ばれる地球の“皮”が海溝で沈み込むために作られます。

【火山のできかた】

地球の表層部が何枚かの硬い板に覆われています。板(プレート)はほとんど変形しないで水平に動き回っています。この考え方をプレートテクトニクスといいます。
プレートテクトニクスによると、火山は以下のようなしくみで作られます。

  1. 海のプレートが陸のプレートの下にもぐりこみます。もぐりこむ場所は海溝です。
  2. 海のプレートは、沈み込むときに水分もいっしょに引き込みます。持ち込まれた水分は地球内部でマントルのかんらん岩に接し、構成鉱物を水分を多く含む鉱物に変えていきます。緑泥石や蛇紋石などが誕生するわけです。
  3. この“水っぽくなったマントル”はさらに海のプレートに引きずられて潜っていきます。ある程度の深さまで来ると、まわりの温度や圧力に対応できる鉱物に変わります。つまり水を含んだ鉱物は再び変化し、水分を吐き出します。
  4. 吐き出された水分は地表に向かって上昇していきます。岩は、仮に同じ温度であれば水分があるほうが融けやすくなる性質があります。そこで、水が上昇していく途中でマントルの一部を融かします。融けた岩の液体は、やがて集まってマグマ溜りを作ります。

このようなでき方をするため、火山は海溝からほぼ一定の距離を持って列状に並ぶことになります。
北海道沿岸には日本海溝と千島海溝があります。二つの海溝は襟裳岬沖でぶつかっていて、北海道の火山の列はそれぞれの海溝に沿うように分布しています。有珠山は東北地方から続く火山の列、つまり日本海溝に沿った列に入っています。

【日高山脈と火山】

さて、日高山脈には火山そのものはありません。しかし「マグマ溜り」の化石が残されています。たとえばペンケヌーシ岳や戸蔦別岳などを含む南北約30km、東西約4kmの地域には、かつてマグマ溜りを形成したマグマがゆっくり冷え固まったためにできた深成岩が分布しています。
このマグマ溜りは、日高山脈に広くみられる変成岩を作る原因になったとみられています。まだ北海道がほとんど海だった頃、地表でもっとも温度の高い場所(プレートが新しく生まれる海嶺という海底山脈)が南から北へと通過していきました。高温のために深部の岩は融けてマグマとなり、またマグマにはならなかった岩も高温にさらされて変成岩になったと考えられているのです。

▲ページトップヘ
▲迷走記タイトルヘ